ランニングで膝の内側が痛い|鵞足炎が疑われた50代男性の症例
2026年09月5日
「走ると膝の内側が痛む」「MRIでは問題がないと言われたのに、ランニングを再開すると痛みが出る」
このような膝の痛みでは、膝関節内部の損傷だけでなく、膝の内側に付着する筋肉や腱、股関節の筋力、片脚で着地したときの動きなどが関係していることがあります。
今回は、ランニング再開後に膝内側の痛みが強くなり、鵞足炎が疑われた50代男性の症例をご紹介します。
ご来院時のお悩み
患者さんは50代の男性です。
1か月以上前、ランニング中に右膝の内側が痛くなりました。医療機関でMRI検査を受けましたが、明らかな異常は指摘されなかったとのことです。
しばらくランニングを控えていましたが、来院3日前に再開したところ、膝内側の痛みが強くなりました。
患者さんの目標は、痛みなく10kmを走れるようになり、将来的にはショートディスタンスのトライアスロンに挑戦することです。
鵞足炎とは?
鵞足とは、膝の内側にある縫工筋・薄筋・半腱様筋という3つの筋肉の腱が、すねの骨に付着する部分です。3本の腱が集まる形がガチョウの足に似ていることから「鵞足」と呼ばれています。
ランニングなどで膝の曲げ伸ばしを繰り返すと、鵞足周辺の腱や滑液包に負担がかかり、膝の内側に痛みが出ることがあります。これが一般的に鵞足炎や鵞足滑液包炎と呼ばれる状態です。
主な症状は、膝関節より少し下の内側に生じる痛みや圧痛です。ランニング、階段昇降、スクワットなどで痛みが強くなることがあります。米国整形外科学会(AAOS)
ただし、膝内側の痛みには半月板損傷、内側側副靱帯損傷、疲労骨折なども考えられます。痛む場所だけで鵞足炎と決めつけず、受傷経過や画像検査、理学検査、実際の動作を総合的に確認する必要があります。
膝関節と神経の検査
今回の症例では、膝関節内部や靱帯の状態を確認するため、複数の理学検査を行いました。
前十字靱帯・後十字靱帯・内外側側副靱帯を確認する検査は陰性でした。また、半月板の状態を確認するステインマンテスト、マックマレーテスト、ワトソン・ジョーンズテストでも、明確な痛みや異常反応はみられませんでした。
さらに、SLRテストとFNSテストという、腰部や大腿部の神経に刺激を加えて症状が再現されるかを確認する検査も陰性でした。
股関節の状態を確認するパトリックテストでは、股関節そのものではなく鵞足付近に痛みが出現。鵞足部の筋肉を個別に確認したところ、縫工筋に負荷をかける検査で痛みが再現されました。
これらの結果から、膝関節内部の明らかな不安定性よりも、縫工筋を含む鵞足周辺が痛みに関係している可能性を考えました。
ただし、各検査結果だけで損傷部位や原因を確定できるわけではありません。今回は「縫工筋が関係する鵞足部痛が疑われる状態」として評価しています。
ランジで膝が内側に入る動きを確認
スクワットとランジでは、右膝内側に痛みが出現しました。
特にランジでは、膝がつま先より内側へ入る「knee-in」がみられました。膝が内側へ入ること自体が必ず痛みの原因になるわけではありませんが、股関節や足部を十分にコントロールできていない状態では、膝内側への負担が増える可能性があります。
片脚で立ったときの骨盤の安定性を確認するトレンデレンブルグテストも陽性でした。さらに、徒手筋力検査では次の筋力低下がみられました。
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両側の腸腰筋:MMT3
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両側の中殿筋:MMT3
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右ハムストリング:MMT3
MMT3は、重力に逆らって動かすことはできるものの、外から抵抗を加えると十分に保持できない状態を表します。
中殿筋は、片脚で身体を支える際に骨盤が横へ傾かないように安定させる筋肉です。今回みられた中殿筋の筋力低下とトレンデレンブルグ徴候は、ランジで膝が内側へ入る動きに関係している可能性があります。
筋肉の硬さと足部も評価
柔軟性の評価では、左右の腸腰筋と大腿四頭筋に硬さがみられました。
HBD(かかととお尻の距離から大腿四頭筋の柔軟性を確認する検査)は陽性で、かかととお尻の間に4横指分の距離がありました。また、右膝蓋骨には左回旋・左傾斜の位置的な偏りもみられました。
足部では、後方から見たときに外側の足趾が多く見える「too many toes sign」が確認されました。これは、足部の向きやアーチの状態を確認する所見の一つです。
さらに、立位では右側の骨盤が下がり、右肩が高くなる全身の左右差もみられました。
これらの所見だけで膝痛の原因を断定することはできません。しかし、ランニングでは片脚で身体を支えながら着地と蹴り出しを繰り返します。そのため、膝だけでなく、股関節・骨盤・体幹・足部を含めて評価することが重要です。
実施した施術
今回は、次の施術と運動療法を行いました。
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骨盤周辺の調整
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腰部・仙腸関節・腸腰筋・中殿筋へのハイボルト
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鵞足周辺へのハイボルト
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ヒップアブダクション
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大腿四頭筋のストレッチ
はじめに骨盤周辺へ施術を行ったところ、立位でみられた骨盤の左右差に変化がみられました。
続いて、腸腰筋へハイボルトを行うと、患者さんから「脚が軽くなった」という感想がありました。
腰部・中殿筋・仙腸関節へのハイボルト後にランジを再評価したところ、膝が内側へ入る動きが軽減し、ランジ時の痛みはPS2まで低下しました。PSは痛みの強さを表す指標で、0を「痛みなし」、10を「最も強い痛み」としています。
最後に鵞足周辺へハイボルトを行ったところ、施術時のランジ動作では痛みが出ない状態まで変化しました。
ただし、その場で痛みがなくなったことが、鵞足周辺の組織が完全に回復したことを意味するわけではありません。ランニングを再開したときの反応や翌日の症状まで確認しながら、段階的に負荷を戻していく必要があります。
自宅で行う運動を指導
施術後は、股関節を外側へ動かすヒップアブダクションと、大腿四頭筋のストレッチを指導しました。
ヒップアブダクションは、中殿筋など股関節の外側にある筋肉を働かせる運動です。片脚で立ったときの骨盤と膝の安定性を高める目的で行います。
大腿四頭筋のストレッチは、今回確認された太もも前側の硬さに対して指導しました。ストレッチは強く引っ張るのではなく、膝内側に痛みが出ない範囲で行うことが大切です。
10kmとトライアスロンを目指した今後の方針
今後は、施術だけで痛みを抑えるのではなく、ランニングに必要な身体機能を段階的に整えていきます。
具体的には、以下の項目を確認する予定です。
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腸腰筋・中殿筋・ハムストリングの筋力
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体幹を安定させる筋肉の働き
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片脚スクワットでの骨盤と膝の位置
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片脚着地時の膝の安定性
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足部の接地と蹴り出し
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ランニング後や翌日の痛み
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走行距離とペースの調整
片脚スクワットやジャンプ動作ができることだけで、ランニング復帰を判断するわけではありません。日常生活での痛み、腫れ、筋力、動作の安定性、運動後の反応を総合して判断します。
状態に合わせて芝生上での動作練習も取り入れ、ウォーキング、ウォーク&ラン、短時間の連続走というように負荷を段階的に上げていく方針です。
まずは痛みなく10kmを走れる身体をつくり、その先にあるショートトライアスロンへの挑戦をサポートしていきます。
ランニングによる膝内側痛でお悩みの方へ
MRIで大きな問題が見つからなくても、筋肉や腱への負担、筋力低下、柔軟性、ランニング動作などが痛みに関係している場合があります。
また、休むことで一時的に痛みが軽くなっても、以前と同じ距離やペースで急に再開すると、再び症状が強くなることがあります。
膝の痛みを確認する際は、痛む部分への施術だけでなく、股関節・体幹・足部の状態や、片脚で身体を支える動作まで確認することが大切です。
大島駅前サモーナスポーツ整骨院では、国家資格者が身体の状態を評価し、施術、運動療法、ランニング復帰、再発予防まで段階的にサポートしています。
よくあるご質問
Q1.MRIで問題がなくても膝が痛むことはありますか?
MRIで靱帯や半月板などに明らかな異常がなくても、筋肉・腱・滑液包への負担や、動作時にのみ現れる問題によって痛みが生じることがあります。
画像検査と身体の痛みは、必ずしも完全に一致するとは限りません。画像だけでなく、痛む場所、動作、筋力、柔軟性などを総合的に評価することが重要です。
Q2.鵞足炎でもランニングを続けてよいですか?
走るたびに痛みが強くなる場合は、距離やペースを一度下げる必要があります。痛みを我慢して同じ負荷を続けるのは避けましょう。
完全に運動を中止する必要があるとは限りません。痛みが出ないウォーキングや、膝への負担が少ない運動へ変更できる場合もあります。再開時は短い距離から始め、運動中だけでなく翌日の反応も確認してください。
Q3.鵞足炎と半月板損傷はどう違いますか?
鵞足部の痛みは、一般的に膝関節より少し下の内側に現れます。半月板損傷では関節の隙間付近に痛みが出ることがあり、腫れ、引っかかり、ロッキング、膝崩れを伴う場合があります。
ただし、症状が似ることもあり、痛む場所だけで見分けることはできません。正確な鑑別には医療機関での診察や画像検査が必要になる場合があります。
Q4.鵞足炎にはストレッチだけで十分ですか?
筋肉の硬さが関係している場合は、ストレッチが役立つ可能性があります。しかし、股関節周辺の筋力低下やランニングフォーム、走行距離の増やし方に問題が残っていると、痛みを繰り返すことがあります。
柔軟性だけでなく、股関節・体幹・膝・足部の筋力と動作を確認し、必要な運動を組み合わせることが大切です。
Q5.ランニングへ復帰する目安はありますか?
明確な基準は身体の状態によって異なりますが、次の項目を確認します。
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歩行や階段で痛みが強くならない
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膝に腫れがない
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スクワットやランジを安定して行える
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片脚で身体を支えたときに大きく崩れない
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軽いジャンプや着地で痛みが出ない
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運動した翌日に症状が悪化しない
これらを確認したうえで、ウォーキングと短いランニングを交互に行うところから始めます。
Q6.どのような場合は整形外科を受診すべきですか?
膝の強い腫れや熱感、急な悪化、体重をかけられない痛み、膝が完全に伸びない、ロッキング、明らかな不安定感がある場合は、整形外科の受診を優先してください。
また、運動量を調整しても痛みが続く場合や、安静時・夜間にも痛む場合も、再度医療機関へ相談することをおすすめします。
※本記事は一症例の経過を紹介したものであり、すべての方に同様の変化が得られるものではありません。症状や回復までの期間には個人差があります。
この記事の執筆者:中澤 武士(なかざわ たけし)
保有資格:
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柔道整復師(国家資格)
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NSCA-CSCS(認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト)
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NASM-PES(パフォーマンスエンハンスメントスペシャリスト)
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中学校・高等学校教諭一種免許状(保健体育)
プロフィール:
スポーツ現場から医療分野まで幅広く携わる実践型トレーナー・施術者。
これまでに、大相撲の横綱をはじめとする幕内力士、新極真空手日本代表、プロボクサー、デフフットサル日本代表、競輪選手、実業団選手、市民ランナーなど多様な競技者をサポート。
施術による痛みの改善から競技復帰、さらにはパフォーマンス向上まで一貫したサポートを行うことを強みに、学生アスリートからトップ選手まで高い信頼を得ている。
現在は、江東区エリアにて「サモーナスポーツ整骨院」「パーソナルトレーニングジム サモーナ」のエリアマネージャーとして、現場での施術・トレーニング指導に従事。スタッフ教育にも力を入れ、後進トレーナーの育成にも積極的に取り組んでいる。
区の行政事業における体操教室、トレーナー専門学校での学生教育、同業トレーナーへの指導、社内研修での講師など、教育・普及活動にも幅広く参加。
「根本改善・再発防止・パフォーマンス向上」を掲げ、身体の本質を見極める全身アプローチを信条に、多くの利用者が長く健康で動ける身体づくりをサポートしている。
この記事の監修者:鮫島 洋一(さめしま よういち)
保有資格:
- 柔道整復師(国家資格)
- 鍼灸師(国家資格)
- あん摩マッサージ指圧師(国家資格)
- JSPO-AT(日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー)
- NASMフィットネスエデュケーター
プロフィール:
メディカルトレーナーとして、甲子園大会や世界陸上など国内外のスポーツ現場に帯同。トップアスリートから成長期の学生アスリートまで、競技復帰・再発防止・パフォーマンス向上を見据えた施術・指導を行っている。
スポーツ障害に対する専門的な視点と、根本改善を重視した全身アプローチで、多くの競技者のサポートに携わってきた。
現在は江東区エリアにて「サモーナスポーツ整骨院」「パーソナルトレーニングジム サモーナ」を運営し、地域の運動愛好家・学生アスリートからの信頼も厚い。また、トレーナー教育のための専門学校のコース長として教育の現場でも活躍している。









